2014年8月22日金曜日

「幻肢」 島田荘司×綾辻行人 特別対談に行ってきましたよ 前編

8月9日に、島田荘司原作の映画「幻肢」のファウンディングプラン出資者(10人くらい)のみが参加できる「島田荘司・綾辻行人対談」に行ってきました。3万円のプランです。
http://genshi-movie.com/

あまりにも楽しい話が次々に聞けましたので、メモと記憶を頼りに主観レポートって感じで印象的だった発言などをちょっとまとめてみます。
あくまで当方の主観ですので、正確なものは今後公開される(かもしれない)ものをお待ちください…。

まずは映画の話から。

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●幻肢
綾辻:「夏、19歳の肖像」を彷彿とさせる青春ミステリで、ちょうど大学生の頃に島田さんと出会った頃のことを思い出しながら見ていたので、これがミステリ映画だってことを忘れて観ちゃって…。
終盤は感心してしまいました。


島田:優しい感想をありがとうございます。ずいぶん久しぶりに会いますが、綾辻さんもこのように偉くなられて(会場笑)巨匠の風格も出て、アニメにもなりと…。でも全然変わらないのが綾辻さんの素晴らしいところですね(笑)

私、青春ものが好きなんですよね。「透明人間の納屋」ですとか「夏・19歳の肖像」のような、それほどトリッキーなものでなくとも書いててグッと来る。
                       


●映画への関わり方
司会:一連の、映画を人と一緒に作っていくと言う体験についてお聞かせください。


島田:私は全く初めての体験でした。綾辻さんは?


綾辻:映画は「アナザー」と言うのを。あまり口を出してもかえって話がややこしくなるのでほとんどお任せで…。

それよりどちらかというと、有栖川有栖さんと原案を考えて「安楽椅子探偵」と言うドラマを脚本を書いて演出をチェックして…と言うことをやっててそちらの方が似てるのかなと言う気がしました。

これ(DVDを取り出す・会場笑)6作目なんですが一番出来がいいと思います。
                     

島田:いただいてもいいんですか?!ありがとうございます(笑)
楽しみですねぇ。
マンガの「月館の殺人」もそんな感じだったんじゃないんですか?


綾辻:あれはね~!企画の段階からIKKIの編集が声をかけてきて、僕が原作を考えて佐々木さんが絵を書くと言うのをミステリでやりたい!と言ってきて完全合作で。


島田:あれ、メイキングマンガが付いてましたよね。
マンガ家さんが質問すると「あ、それは無視していいです」とか言って(笑)あれは本当なんですか?


綾辻:本当です!(笑)
                     

●昔
綾辻:昔は僕も若かったし、ケンカとはいわないまでも論戦をしたんですが、それから僕も経験を積み…、島田さんの言うことがすごくよく解るようになったんですね。

島田:30年も書いてるかなぁ~。それを思ったとき綾辻さんと宇山さんとの出会いが大きかったんですよね。あれによって「新本格」というジャンルをクリエイトし深めていくことが出来た気がするんですね。


●映像
島田:「SHERLOCK」とか「メンタリスト」とか私、ファンで。ディテール素晴らしいですよね。
台詞とか言い回し、ちょっと人を食ったような名探偵の姿…。論理的な推理もすばらしいですけど、あれをノベライズしてもあまりすごいことやってないかもしれない。
構造的には日本は絶対に負けてないと思うんですよね。「肩を並べる」とは言わない、迫ってみたい…という夢があります。


綾辻:ゲームやマンガ、アニメに関わって…。やっぱり媒体によって得手不得手ありますよね。
それをどう生かすかだと思うんですよ。
ミステリと言うジャンルでそれぞれに面白いものを作るには、そのメディアの特質を理解して、それならではのものを考え出すことなんだろうな。と言うことをずっと思っていますが「実写になったらダメダメ」というケースが多くて…。「犬神家」「砂の器」くらいですかね。原作以上といえるのは。
映画化っていうのは長編は難しくて、短編を膨らますか中編を削るかがやりやすい。


島田:「Another」のアニメを見せていただきました。非常にカッコ良かったし綺麗でしたね。
音楽もまた変わってるじゃないですか、ロックなんだかすごくコード進行が変わってる。絵と音楽が新しくて鮮烈な感じがしました。登場人物の描線も存在感があって、シャープで鮮烈でした。
                    
綾辻:日本の深夜枠のアニメは、突出して進化しちゃってますからね~。


島田:前に評判だったので「ひぐらしのなく頃に」も観たんですが、あの時よりも全然進化してました。絵もAnotherのほうが高度だしきれいですよね。


綾辻:Anotherはいいスタッフが集まってくれて嬉しかったんですが、脚本の方がよく原作を理解してくれて、咀嚼力の高い業界だと思いました。


●新本格
島田:綾辻さんの作風と言うのは革命でしたからね。一見、典型的なパーツを使っているように見えるのに、レンガを積んでいるように最後の一個で全体がガラッと変わってしまうような…すごい世界でした。あれによって日本のミステリは変わりましたよね。振り返ってどうですか?
ヴァン・ダイン主義的なものというのは意識にあったんですか?


綾辻:特に考えてないですけど…(笑)。島田さんの最近の論も拝見して、一応は理解しているつもりなんですが…。
ただ僕たちもそういうの大好きだったものですから、憧れとして「グリーン家」とか「Yの悲劇」のようなものが書ければいいな。と言うことでやってました。
                       

島田:やはり京大ミステリ研のなかでは、ヴァンダイン的なものが本格の本道としてみんなに了解されていた…?


綾辻:「犯人当て」が伝統としてありましたから、「挑戦状」を入れるとなるとおのずとそう言うものが中心になって、そこにみんな居たもんですから…(笑)


島田:やはり、高度な本読み達がそれを探り当てていたんだろうと思います。「こいつが一番具合がいいぞ」(笑)と。


綾辻:昔、島田さんとミステリ論を出した時に「器の本格ばかりみんながやってると行き詰るよ」と言われたんですが、本当にそのとおりで(笑)
                     

島田:いやいや(笑)


綾辻:決められたルールの中で新手を考えようとすると、その中だけだと当然いっぱいになって新鮮味も出せない…。

結局何が起こったかと言うと、90~00年代には「枠組みを壊す」ことだったんですね「ここも壊れる、ここも壊れる」なかで広がっていった…という一面があってその中で格闘してきたわけですが、あの時、島田さんが「まずは謎だ」、「新しい謎の創出」と言われましたが、今になってあれはすごく正しかったことで。
結果として新本格以外の本格ミステリも器を解体したり壊したりしながら同じところを目指しているのではないか…。と思うんですよね。


島田:おっしゃるとおりだと思います。そこで綾辻さんを中心とした京大ミステリ研の功績もあったと思います。綾辻さんのやったことってやっぱり凄いんですよ。
ヴァンダインを誰も真似できなかった。それを70年遅れて綾辻行人がやったんですよ。
京大ミステリ研の人たちが、ヴァンダインをうまく取り込んであっという間にムーブメントが起こっていった。
どうして取り込めたかと言うと、犯人当て小説の出題、朗読だけでプリントも配らないという方式。

そして綾辻さんのもうひとつの功績として「人物記号化表現」を探り当てた。
そういうありようというのは、コンピューターゲームの登場によって全く正しかったことが証明された。


綾辻:あれね~。あれは自分でもビックリしましたけどね。こんなことになるとは。


島田:凄いことが起こったんですよ。時代の必然であり正しかった。
解体をしていくとさっき言われましたけど、それも京大ミステリ研が…


綾辻:いや、その段階ではいろんな才能が出てきて、京極さんとか西澤保彦さんとか花盛りな感じがして。00年代になると若い人が出てきてどんどん形が変わってきてますけど。


島田:「ひねくれたような形で壊していく」というと、麻耶さんなんかは…(会場笑)


綾辻:麻耶君は、壊してるつもりはあまりないと思うんですよね~(笑)
彼は求道者として道を究めようとした結果、壊れていく(会場笑)。
重力場にいろんなものが巻き込まれて崩れていっているように見えるんだけど、本人はいたって真面目というか(笑)
彼は京大の面々の中で一番真面目なんじゃないかなぁ…。それゆえにあんなものになってしまうという(会場笑)逆説的な天才なんだと。


島田:そうですね。あれが天然でやってるなら、天才としか言いようがないなぁ。
しかし、あの時期によく固まって(作家が)出ましたよね。


綾辻:27年経ったので言いますけど、あれはもう奇跡ですよね。
僕がたまたま留年して…その年に法月くんと我孫子君が入ってきて小野不由美さんもたまたまいて、役者が揃った状態で島田さんと知り合いましたからね。


島田:巽さんも居ましたね


綾辻:巽さんはずっと居たんですけど(会場笑)


島田:福ミスの時にもさかんに言ったんです。
「京大ミステリ研の方たちが一時代を作りましたが、乱歩賞の候補になった人は一人もいない」(会場笑)


綾辻:(笑)我孫子君は出してなくて、出したのは僕と法月君ですけどね。
僕は一次、法月君は二次まで通ったんですが、有栖川さんは一次も通ったことがない(笑)なのに乱歩賞の選考委員をやっている(会場笑)「ええ気味や!」とか言って(笑)


島田:なにか構造的な誤りがあるんじゃないか(笑)と言う気がしますけど。


●出会い
島田:綾辻さんのペンネームを考えるって時、当時は姓名判断に凝ってて99.9点くらいの名前を考えたんですが、どうも名前のような気がしなくて「綾辻…行人っていうんだけど…」と言ったら「ああ、それでいいです」と言われたことがありました(会場笑)
最初は文字も不揃いだったのに、1年くらい経つと本に署名してくれたものは見事にピシッと。
ホッとしましたね。あの時は。

そのほかにも色々…。何度も行くようになったんですよね。綾辻さんのところへ。ポルシェで東名を走りたくて(笑)。
それで泊めてもらうと、我孫子君と法月君がやって来て二人で漫才みたいにアイデアを披露しあって…。
まあ、どれも大したことないな。と思ったんですけど(会場失笑)
そんな風に切磋琢磨してみんな大きくなったんだな~と。


綾辻:島田さんと知り合って、宇山さんが面白がって次々と出すという流れになったり、色々な偶然が重なってあのような状況が。

占星術殺人事件の文庫版のあとがきにもありましたけど「たまたま京都に当時知り合いが居たので京都を舞台にした。北海道に知り合いがいたら舞台は北海道になったかもしれない」と書いてあって。僕は、小説に出てくる場所がよく知っているところばかりでしたから、今で言う聖地巡礼(笑)
「ここで御手洗が走ったんだよ!」とか言ってて…。
それもあって立命館の講演に駆けつけたんですよね。
それでメールで「あの時、あのような形で占星術殺人事件を書いてくださって本当にありがとうございました」って。それで全てが始まった。という。
                      

島田:とんでもないです。私こそ、いやジャンルこそが綾辻さんにお礼を言わないと。
あそこまで、全く変わった創作のメソッドを持って登場するということ。非難轟々でバッシングが起こったりした。そのこと自体が栄養になり話題になり…あれが優等生的な作品だったら先細りになっていたかもしれない。


綾辻:まあ、みんなが待っていた感じはありましたね。期が熟していた感じ。
そこに至るまでには、笠井さんの「バイバイ・エンジェル」があり、島田さんの「占星術」があり、幻影城の人たちがいて、コップに水がいっぱいになろうとしていた良いタイミングに島田さんの推薦で出た…。
待ち望んでいる読者がいなければ何も起こらない訳ですから、やっぱり潜在的なニーズがあったんでしょうねぇ。
                       

島田:「占星術」が登場し、案の定ものすごいバッシングの嵐になりましたが、これが落ち着いたのは綾辻さんの登場からじゃないかな~と思うんですね。まあ数が揃ったということかな。一人じゃなくて複数になったということで。


綾辻:やっぱり「島田荘司推薦」と言うのがあったからデビュー出来たわけですよ。それと宇山さんの名コピー「まだあった大トリック」。あれでみんな買ってくれたんじゃないですかね。
                       

島田:宇山さんとの出会いは大きかった。ともかく、人間的な常識とか成長とか大人としての対応、ありよう。そういうカッコつけがハナから頭にない。どんなに偉くなっても子供みたいな人でした。
綾辻さんが出てきたときには、「どんな批判の雨あられが降ろうと、全財産を失おうと、イタリアのメディチ家のように新本格を守って死んでいきます!」なんてね。


綾辻:そんなこと言ってたんですか?!(笑)


島田:3回くらい聞きましたよ(笑)。まあでもあの人、酔っ払いだったしね(会場笑)
でも彼のおかげが大きかったです。よく「多くの新人の推薦文を書いて世に出し、慧眼でしたね」と言われるんですが…忙しかったですからね。
だいたい宇山さんの言うとおりに読み、推薦文を書いて、あるいは名前をつけて。彼の言うままにやっていたんです。だから彼の力が大きかったんですね。


綾辻:当時どんどん新人が出て、講談社ノベルズとは別に東京創元社でもどんどん新人を発掘するみたいな、同時並行的に…。


島田:そうですね。レールができ、仕事として意識されるようになった。
当時、新人推薦を「乱歩賞があるじゃないか、賞に入れてもらえばいいじゃないか」と批判されたんですが、でもいま先頭に立ってる人たちは候補作にもなっていないと言うのがありますし、構造的に誤っているという思いもありましたし…。「これは頼りにならんな」という思いがありました。
宇山さんは講談社から給料をもらってるのに私に同調して「解りました。もう乱歩賞なんかいいです。こっちで出しましょう」って。あれ社長が聞いたらクビなんじゃないかって(会場笑)
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以上前半。

約1時間半、話が広がりに広がりましたが本当に面白く、特に「綾辻さんの家に行って泊まる」のくだりは、ミステリ版トキワ荘という感じがしてグッと来ましたよ!(笑)

そして新人推薦。まさかこういう構図だったとは…。まあ冷静に考えればすごく忙しいわけで、「そりゃそうか」と思うしかありませんけども。
次は後半。参加者からの質問タイムに続きます。