2012年10月1日月曜日

竹本健治デビュー35周年&『かくも水深き不在』刊行記念トークショー

9月19日に、新宿のビリビリ酒場にておこなわれた「竹本健治デビュー35周年&『かくも水深き不在』刊行記念トーク」に行ってきましたよ。

高校生の時に友人から「匣の中の失楽」を貸してもらった事がきっかけでミステリにドハマリした身としては、竹本先生のトークを聞けるなんてまるで夢に見たようなイベントです。

聞き手が評論家の福井健太氏、ゲストが作家の宮内悠介氏。
ほかにも参加者の多くが関係者で、それこそ「ウロボロス」シリーズに登場した方もたくさんいらしてたようです。


しっかりとした下調べで追及するように(笑)聞き込む福井さん、時折鋭いツッコミを入れる宮内さんに対して、マイペースでのらりくらりと答えていく竹本さんは、さながらジャイアント馬場のような佇まいでした。
それにしても35周年。僕が生まれて間もなくのころから作家を続けてらっしゃるのですね~。拍手!

これまでに書いた作品をひとつずつ挙げながら、それに関して話を聞く。という形式でした。
とりあえず、印象に残る発言などを書いていこうかと思います。

※竹本健治全著作はこちらのサイトで参照するのがオススメ。
http://milleplateaux.fc2web.com/page013.html


●匣の中の失楽
                   
福井:「四大奇書」という言い回しがここ10年くらいで出てきましたが、感慨はありますか?
当時のレビューでは必ずしも絶賛ではないようでしたが。

竹本:表面的にうかがえるのは「こんな時代遅れのものを今更ねぇ~」という反応でした。

福井:(現在は)巨大な3つの山の隣りにある。と認識されてると思うんですよね。

竹本:自分自身がどう評価されているかと言うのは…
僕自身、とにかく売れない作家で貧乏作家をず~っと続けている身としては、評価とかあんまり関係ない(笑)
実際のところ、こんななまけ者の僕が35年やってこられたのは読者の支えがあったからで、それはありがたいと思ってますけど……というのはあんまり答えになってない(会場笑)


●偶という名の惨劇(幻の未発表作品)
竹本:2~300枚くらい書いて(幻影城の)島崎さんに渡したら「こんなのダメ!」と突き返された。
20年位前に見返したら「うわっ!出さないでよかった…これ出したら僕は終わってた~」(会場笑)


●囲碁殺人事件
囲碁ミステリを書こう。というのは先方からの注文。

竹本:どうも振り返ってみると、僕は暗号作りが好きらしい…

福井:でしょうね(会場笑)


●将棋殺人事件
竹本:囲碁殺人事件で詰碁を出したから今回も。テーマも詰め将棋でしたし。まあ無謀な(笑)


●トランプ殺人事件
                  
竹本:とにかく暗号が先に決まって。暗号に合うようにストーリーを…

宮内:暗号に合うようにストーリー作ったんですか?!!


●狂い壁・狂い窓
                  
竹本:この小説が、今まで読んだ中で一番怖かったと言ってくれる人が結構いる。法月君もそうだったかな?


●腐食の惑星
ミステリが嫌になった時期があってSFへ。
SFということで、お客さんで来ていた大森望さんに話が振られました。

大森:すでにSFは売れない時代になっていたが、まだ幻想が残っていて、出版企画が通りやすかった。で、このへんから「ダメじゃないの?」というのが始まった。
だから、腐食の惑星の売れ行きがそれを左右したのかもしれません(笑)


クー
竹本:このころ「読者に嫌がらせをしたい」という願望がとても強くあり…
どこまで嫌がらせできるかと考えて書いてました(笑)


●パーミリオンのネコ(4作)
竹本:注文があれば何でもやります。「これを書け」といわれればやりますし、「トリック芸者」の続編を書けとも言われれば(会場笑)やりますし~。
これの続編は辛いかもしれないけど。


カケスはカケスの森・ツグミはツグミの森
                      

竹本:カケス、ツグミというフレーズの入った詩を昔書いて、それをタイトルに使った。

宮内:じゃあ完結しちゃってますね。

竹本:でも、注文があればもう一冊でも!(笑)なんでもやります。


●入神・風刃迷宮
                      

入神と風刃迷宮。表裏をなす話。
竹本:誰に手伝ってもらったかすっかり忘れちゃってて、「わたし入神手伝ったんです~」と言われて驚く事がよくある(笑)


凶区の爪・妖霧の舌・眠りの森の惨劇(「緑衣の牙」に改題)
                      

福井:(3作目は)なんでタイトル変わったんですか?前のとあわせるため?

竹本:そんなもんだろうねえ~(会場笑)
そもそも、3作目に何でこんなタイトル付けたのか自分でも解らない(笑)


●ウロボロスの偽書・ウロボロスの基礎論・ウロボロスの純正音律
                      
竹本:「匣の中の失楽」が、当時の友人たちをそのまま使った実名小説。という所から始まっていたので、実名小説という発想は浮かびやすかった。

宮内:これに出るのがひとつの夢だったんですけど、先に完結してしまって…

福井:いい事ないよ!!(会場失笑)
竹本:注文があれば書きます!
自分でも意外だったんですけど、「いろんな作家さんをこれによって知りました」という人が意外に多くて。


●キララ探偵す・キララまたも探偵す
福井:……どうなんでしょう?(会場笑)

竹本:さっと次に行きましょう…

●闇に用いる力学
                      
竹本:いちおう3部作。書き始めたのはオウム事件より前で、「あらららら~…」と思った。
青嵐編で終わるつもりだけど、どれくらい枚数を書くかは終わってみないとわからない…


●閉じ箱・フォアフォーズの素数
                      
福井:非常に質の高い短編集で…。話をあえて収束させない方向にしてるっていうのは?

竹本:実際さぁ、ミステリ読んでて途中までワクワクしてたのに、解決でちょっとガッカリしたことってない?
終盤までのワクワク感を永久に持続できないかな?というのがあるんですよね。

宮内:でも、時々カッチリしたものもお書きになりますよね?

竹本:きっちり嵌ったパズルみたいなものも、それはそれで好き(笑)


●かくも水深き不在
                      
福井:今回「新刊記念イベント」で告知を打ったら、最新刊じゃなくなってしまいまして…(笑)
十数年前かな?活字倶楽部のアンケートで、「十年位前に見た怖い夢を小説化したい」と書かれてましたけど、これですか?

竹本:これです!
福井:(最終章の)「舞台劇を成立させるのは人でなく照明である」このタイトルで単行本が出るとツイッターに書かれてたんですが、変わったのはなぜですか?「長い」って言われたんですか?

竹本:そうです、営業部の方から…


汎虚学研究会(最新刊)
                      
福井:サークル内の会話劇ということで、「匣」に先祖がえりしている感じ。

竹本:少年少女を使った話。というのが、自分にとって一番楽に書けますね~。
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どうも、竹本作品を読んでないとさっぱりわからない感じのまとめになってしまいましたが、実際のイベントもそんな感じだったと言うことでひとつ(笑)

私にとってのベストを3つ選ぶなら、「匣の中の失楽」「狂い壁狂い窓」「眠れる森の惨劇(緑衣の牙)」でしょうか。特に3つ目は早すぎた「マリア様が見てる」といいますか、萩尾望都的な世界観と竹本ミステリが融合した名作だと思うので、もっと評価されてほしいなぁ~。

このあとは、第二部で「ゲームについての対談」がありましたが、グダグダ極まりない内容だったのであえて触れないでおきます(笑)
イベント後に行われた誕生パーティーには電車の関係で参加できず残念でしたが、こういう生の声が聞ける機会は貴重でありがたいですし、ぜひまた開催してほしいものです。