2014年2月4日火曜日

海外ミステリー東西評論対決 法月綸太郎VS杉江松恋

1月29日に、新宿のビリビリ酒場で行われた「海外ミステリー東西評論対決 法月綸太郎VS杉江松恋」に行ってきました。
相変わらず、何の案内も出てないイベント会場です。


一応「評論対決」と言うことですが、メインは先ごろ出版された「盤面の敵はどこへ行ったか」
                           
と、「海外ミステリー・マストリード100」
                           
についての対談。

当方の印象に残った話を、以下に抜き出して行きます…。(あくまで主観です)
まずは「盤面の敵はどこへ行ったか」の内容についてのトーク。
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フランスミステリ
杉江:新聞小説(ロマン・フィユトン)が現代ミステリとして蘇って、新たな潮流を作っているのではないか?
「クリムゾン・リバー」とか。ロマン・フィユトンとしての指摘がなかったので面白かった。


法月:e-NOVELSの、タダでネットに書いたものなので、わりかしでたらめなところで書いたものだったのですが、それほど的外れなことを書いてたわけでもないのかな?。と、映画「ヴィドック」公開時に思いました。

「フランスで本格が流行ってるんじゃないか?」と書いたら、ノワールのレビューを書いてる人に「そう言う事実は無い」とはっきり否定されました(笑)
移民の問題がシビアなので、日本よりも殺伐としたノワールがメイン。
ただ、00年代にフランスの本を翻訳する際に、パズル本格のようなものが訳された。
その中でポツリポツリと変な人がいて、「人間が描けていない」というレベルじゃないパズラーが…(会場笑)
                         
フランス人というのは、人間を駒としか考えていないんじゃないか?というものが出てくるのは、お国柄だろうな。と思いました(笑)


●e-NOVELS
法月:いろいろ面白いコンテンツはあったんですが、電子書籍という概念が全く無い時代に電子書籍をやろうとしたので、やがて立ち行かなくなって閉鎖して。読めなくなったので、抜けがけみたいですけどここ(盤面の敵はどこへ行ったか)で使わせてもらいました。

杉江:他の皆さんもまとめられた方がいいと思います(笑)


●ウルフ連続殺人
杉江:(第一部の十三歩で)ウィリアム・A・デアンドリアの、みんなが大好きな「ホッグ連続殺人」を取り上げずに、みんなが大嫌いな「ウルフ連続殺人」を取り上げて、「これどうするんだろ?!」と思うと、「ロマン・フィユトンの目線で見るとこれは悪くないんだ!」と書いてあって自分の不明を恥じる…と(笑)
で、その気になって読ませるけど「やっぱり『ウルフ』だな」と(会場笑)

法月:(笑)デアンドリアは世代によって受け取り方が違う作家で、下の世代になると「どうして『ホッグ』を上の世代の人たちはそんなに褒めるの?」という人もいますが、僕らの世代だとアレが出たとき(本格が絶滅したアメリカで)「いるじゃないか!」ということが、どれだけ力になったか。と。


●沢木耕太郎
法月:僕らの世代では、フィクションは村上春樹。ノンフィクションは沢木耕太郎。
二人ともハードボイルドの匂いがする。文体や構成を毎回実験しながらやっている人で、若いころは影響を受けた。

初期沢木の試していることを見ると、もうミステリーの構造としてしか読めなくなる(笑)
「一瞬の夏」の「むかし書いたボクサーを自分がプロモーターになって再生させる」。ことが「名探偵が自分で事件を起こす」みたいに見えてしまう…。
「どうするんだろう、この人は?」と思ってたことがありました。

「深夜特急」は、もう完全に「私の物語」になってて、「ジャーナリストとしては一回死んだんじゃないか…」と考えたことがありました。デビューまえの若造でしたけど(笑)

杉江:フィクションの書き手になっちゃったんですね。


●日常の謎
法月:今ふと思ったので違っているかもしれませんが、日常の謎というのは、不意打ちで何かを受けるときの驚き。それと納得が同時にやってくる。散文ではない、詩の領域。
北村薫さんが、実際に起こったことを「実はこうだったんですよ」と言った時に受ける「ああ!本格!!」という感覚。これは散文ではないのかも。 

杉江:これは次回の宿題にしましょう

法月:明日には忘れてると思います(笑)


●ネオハードボイルド
法月:70年代後半から80年代にたくさん出ていて元気があった。色々あるので、自分の好みに合う奴もある。

村上春樹が「ネオハードボイルドはゴミだ」といった文章を雑誌に書いていて、「とにかく『モーゼス・ワイン』は最低だ!」と書いてある。
「北米探偵小説論」を書いた野崎六助さんも、やはり「ネオハードボイルドはあかん」「中でも『モーゼス・ワイン』は最低だ!」と書いてて、団塊の世代のミステリ読みにとって、とにかくモーゼス・ワインというのは許せないキャラだったんですかね~…(笑)

杉江:何でそんなに嫌われるんですかね?(笑)

法月:わかんないんです(笑)。下の世代の人間から見ると、なかなかクレバーな作家だと思って、ロジャー・L・サイモン、僕は好きなんですけど上の世代からは忌み嫌われている。

あれは結局、「アメリカ人にとっての新本格」だったのかな~…?それなら上の世代の人が、「あれは最低だ」と言うのも腑に落ちるかな?と思った(会場失笑)

●クォンタム・ファミリーズ
                        
法月:東浩紀という、いまは胡散臭い人(笑)がいて…

杉江:面白い人!(笑)

法月:奥さんのほしおさなえさんが、小鷹信光の娘と言うことを知った時には、ありえないくらいに驚いた。
東浩紀が小鷹信光の娘と結婚すると言うこと自体、すでにロス・マクドナルド!(会場笑)
どうしてみんな、この事の凄さがわからないんだ!!(笑)…というくらいびっくりした。

杉江:取り合わせもすごいですよね。普通結びつかない。

法月:もう、文学史に残るような出来事だと。(笑)
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以上、前半。

それ以外で印象的だったのが、
「クイーンなら、当時アメリカで何が起こっていたか?、どんなブーム、映画があったか。
若いころは、つい『ミステリ』のレイヤーだけで見てしまいがちだが、年をとって知識が増えてくると違った見方が出来る」との発言。

まあ、某富野由悠季さんの言ってることともかぶりますが、やはりいろいろなものを観ておかないと話になりませんやね。当たり前ですが。



イベント後半は、配られた資料をもとに「海外ミステリ マストリード100」と、以前法月さんが選んだ海外ベストを比較しての話。
うーん、ほとんど「古典」&「黄金期」部門しか読んだことがなかった…
まあ、なんというか海外のミステリってタイトルがカッコイイですよね(←バカみたいな感想)

ちなみに、探偵法月綸太郎デビュー作の「雪密室」
                          
は、当初「白い僧院はいかに改装されたか」というタイトルで提案したところ、担当から「(タイトルが)長いので売れません」とあっさり却下され、法月先生はそれを今でも覚えているそうです(笑)
まぁこれは担当編集が正しいでしょうな。

帰り際にはサインもいただきました。

ついでに、先日より気になっていたので「ノックス・マシンの電子版は、なぜあんな収録になってしまったのでしょうか…?うっかり電子版買っちゃって、怖くて紙のほうを買うのもちょっと…」
と質問してみたところ、
「すいません!現在の技術でどうしても電子化できない話があって…。3編載せて座りを悪くするよりも、ばっさりと表題作だけにしようと。苦渋の決断でした」と親切にお答えいただきました。
                        
さっそく紙版を購入して、問題の短編をパラパラと見たら「ああ、こりゃ無理だ!(笑)」とすぐに納得。
というか、こういう本は電子版を出さんでいいような…。

ミステリ作家のトークライブはハズレがない。と個人的には思ってますが、予想通り今回も楽しめました。
この翌日には、「ノックス・マシン」発売記念トークショーもあった模様。そちらも行きたかったなぁ…!